如月のきは 気まぐれのき?
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 
 


それは凄まじい級の極寒だった“大寒”だったのに、
二月に入った途端、三月下旬ほどもの暖かさが襲い来て。
なんと花見頃の気温だ、
九州の方じゃあ早くも夏日だったところまであるらしいなんてほど、
コートも手套もさようならというほどの気温になったので。
やあ、暖かいねぇvvと
素直にお顔をほころばせてしまった人も多かったのではあったれど、
今年は春が早く来るのかねぇなんて、
そこまで呑気なことを思うお人はさすがにいない。
どうせまた、凄まじい級でがくんと下がるんだよ、
年寄りには格差が大きいのが一番困るんだけれどねぇと。
まだ暖かい晩のうちから、ふうと溜息ついてた人も少なくはなかったほどに、

 「最近のお天気ほど、信用がないものもありませんからねぇ。」

それはカラフルなガーベラやフリージア、
バラにカーネーションに チューリップまでもを盛り込んだ、
いかにも春の訪のいを思わせる大きな花束を、
まだ小さい赤ちゃんのように、
両腕で大事そうに懐ろへと抱き抱えているのが七郎次なら。

 「私たちは妙にお元気なもんだから、
  ついつい平気平気で他人ごとみたいになりがちですが。」

そうでもないお人が、意外と間近においででしたねぇと、
随分と大きいバスケットを両手持ちで提げているのが平八で。
実は今日もその伝で、
昨日はGWかというほども暖かだったのに、
今日は午後からどんどん寒くなるらしいと聞いている。
そんな乱高下に翻弄されて体調を崩しちゃったものか、
まだ微妙に春休みではないというに、
学校をお休みしちゃったのが三木さんチの久蔵さんで。

 『感冒やインフルエンザとかいう、疾患ではないのだ。』

もともとお持ちの貧血が久々にぶり返したようなもの。
低血圧ならではな頭痛と気怠るさが出て、枕から頭が上がらぬとかで。
主治医の榊せんせえも、
これから外気温が下がるという予報を考慮し、
手足の先がぐんぐん冷えて風邪まで拾いかねぬのでと、
ドクターストップをかけたらしい。

 『お見舞いに行ってはいけませんか?』

そこもどこか古風なサナトリウムのような雰囲気を醸す、
女学園内の保健室にて。
今日は登校日だったその主治医様へ、
ふたりして じきじきにお伺いを立てたところ。
ちょいと細い眉を上げてから、

 『企みごとへの打ち合わせとかじゃあないなら構わんぞ。』
 『あっ、酷いんだ。』
 『年明けからこっちは、全然何にもやってませんたら。』

そうか、年末のあれやこれやは“お転婆”だったという自覚があるのかと、
微妙に薮蛇になっちゃった会話の後。
お休みじゃあないけど
大学入試の兼ね合いで短縮授業になっているのをいいことに、
それぞれにお見舞いの品を抱え、
三木さんのお宅へと向かっておいでの三華のお二人だったりし。
まだ陽射しもあるもののそろそろ風が強くなってる中、
コートの裾を時折ひるがえしつつ、
閑静なお屋敷町をてくてくと歩む美少女二人だが、

 「ところで、シチさん。花束とは珍しいチョイスですね。」
 「ふっふっふっ、よくぞ気づいて下さりました。」

三木さんチには、
庭師の方が常駐している広大なお庭もあれば、
女学園の設備ほどじゃあないけれど結構大きな温室もある。
そこへお花を持ってくというのは、
花屋に以下同文てくらい、ちょっとした重複ものな行為なのだが、

 「お花みたいですが、実はこれ、全部チョコレートなんですよvv」
 「うあ、凄いじゃないですか。」

どしました、バレンタインデーの予行演習ですか?
いや、アタシが作った訳じゃないんですけどもねと、そこはさすがに鼻白みつつ、

 「この冬、母様が凝ってましてね。
  いい出来だから持ってってらっしゃいって。」

 久蔵殿、体調崩すと食欲も無くすそうですし、
 あ・でも、ヘイさんのそれって、もしかしてゴロさん特製のスィーツとか?

 「ええまあ。でも、チョコレートなら保存が利きますし、
  何より そうまで凄い出来なのだから、数日ほど飾って眺めても。」

 ちなみにブツは何?
 ロールケーキとなめらかプリンvv

きゃあとついついお顔がほころぶ七郎次だったのへ、

 「ご安心を。
  たっぷり詰めていただきましたから、
  私たちもご相伴できますよ?」

そのくらいは見越してますともと、
先程の白百合様の真似ではないが
“ふっふっふっ”と微笑って見せるひなげしさんだったりし。
そんなこんなとお喋りしつつ、なだらかな坂道を登り、
辿り着いたは 敷地をぐるりと鉄柵に取り巻かれた瀟洒なお屋敷。
正門から正面玄関まで連なるアプローチの先に、
ちょっとしたロータリー状の車寄せがあるほどに
ホテルJの別館だと言っても通りそうな、立派な洋館だけれども。
来意を告げるチャイムを押せば、

 「ようこそおいでくださいました。」

さすがに前以て伺いますとの連絡もしていたため、
家令夫人の指示だろう、メイドさんが既に出て来てくれていて、
待たされることもなしでササッと門を開けてもらえる。

 「どうぞ。」
 「お邪魔しますvv」

100mは大仰ながら、それでも結構な距離の前庭を進み、
ちょっとした診療所の待合いほどはある玄関へと誘なわれれば、

 「……。///////」
 「あらまあ。」
 「大丈夫ですか、久蔵殿。」

上がり框の上、いかにも待ち兼ねたという感で
わざわざお出迎えにと出て来ていたのが当家のご令嬢。
エプロンドレス風の丈の長いフレアの利いたつりスカートに
モヘアのセーターも愛らしく。
細い肩にはタータンチェックのストールを巻いていて。
そんな彼女の足元には、ころころと貫禄ある体躯のくうちゃんが、
着かず離れつ、ボディガードみたいに寄り添っているのがまた、

 「微笑ましいですねぇvv」
 「ホント。」

でも、本当に大丈夫ですか?
横になってないと…と、案じてしまう来客二人へ、

 「風邪ではないからな。」

紅ばらさん自身がそうと応じた。
とはいえ、微妙に覇気が足りないようにも見えなくはなく。
通されたお部屋にて、
ラブソファーと肘掛けいすを組み合わせた
応接セットもどきへ腰掛けようとする彼女なのへ、

 「ああ、ダメでげすよ。」

七郎次が“こらこら”と制し、ベッドのほうへ進ませる。
えー?というお顔になったのを、えーじゃないと言い聞かせ、

 「ほら、いつもなら冷たい手が妙に熱い。」
 「う…。」

いやそれは ずっと家にいたからなのと、
外から来たばかりのシチの手が冷たいからで…と。
口が達者なら言い返せもしたろうが、
このクールビューティなお嬢様に、そんな即妙なことが出来れば世話はなく。
パジャマは免除されたものの、
ベッドに横になってなさいというのは譲られず。
椅子のほうをベッド際へ持って来ての、変則的なご対面となってたり。

 「ほらどぉお? ウチの母様が作ったチョコのお花ですよ?」
 「……っvv」
 「こっちはゴロさん謹製、ロールケーキとなめらかプリンvv」
 「……っvv」

素敵なお見舞いに、わぁいvvと双眸を見張ったところは、
リアクションこそ小さいが(笑)それでも年相応の反応であり。

 「学校では特に変わったことはなかったですよ。」

ああでも、久蔵殿のシンパシーの皆様が
交替々々に教室を覗きに来てらしたのが可愛かったですねと、
平八が くすすvvと頬笑み、

 「あと、榊せんせえったら、
  アタシたちが保健室へお邪魔すると、
  一番判ってるはずなのに、
  久蔵殿の姿をチラッて探してらしたのが可愛かったですけれど。」

そんなご報告をする七郎次なのへ、

 「〜〜〜。///////」

こちらはたいそう判りやすくも、
白い頬を真っ赤に染める久蔵だったのがまた可愛い。
メイドのお姉様に用意していただいたミルクティーへ、
ひなげしさんお持たせのケーキやプリンを添えて。
陽の明るさもふんだんに満たされたお部屋にて、
バレンタインデーの検討もそろそろ始めないとねなぞと、
今時の甘い話題に沸くお嬢様がたで。

 「……で、怪しい影は差してませんか?」

ちょっぴり身を倒しての寄せるようにし、
離れたところから見る分には、
微熱はないかとおでこ同士をこつんこしてるような
微笑ましい構図に見せかけつつ。
そんな訊きようをしたのが平八ならば、

 「いい迷惑ですよね。
  久蔵殿が“下さいな”と言った訳でもないってのに。」

ふわふかな金の綿毛をいい子いい子と撫でてやり、
何だったら主催者へ突き返しておやんなさいと、
やや蓮っ葉な物言いをするのが七郎次。
そんな彼女らが見やった先にあったのは、
バレエのやバイオリンのトロフィーが並べられた飾り棚であり。
その一番端っこにやや小ぶりの尖塔のミニチュアが、
先週末にも 加わったばかり。
彼女らにはちょっぴり忌々しい代物だったりするらしく。

 『……?(あれ?)』

何てことはない表彰もの、
確か、某十代向けファッション雑誌主催の
誌上“美少女コンテスト”か何かのトップ賞を取ったとのことで。
(勝手にエントリされていたので何とも曖昧…。)
先週末の土曜の午後に、セレモニー会場へと呼び出され、
他の読者モデルや芸能人、タレントなどなどと共に、
取材を受けつつ表彰されたという顛末があったのだが。

 『どしました?』
 『可愛らしいトロフィーですよね、それ。』

クリスタル製の小ぶりなトロフィーは、
受賞者別に小さな宝石が尖塔の頂へ埋め込まれてあったのだが、
久蔵のその塔に嵌め込まれてあったものが、
ダイヤモンドと説明されていたにしては
どうにも妙な色合いだと、気になったヒサコお嬢様。
そこで会場まで一緒してくれたヘイハチが、
お任せをと引き受けてくれての、簡単な鑑定をしてみたところが、

 『…おや。』

ダイヤモンドというのは言い過ぎで、人造ジルコニアだったのは、
まま、こちらのお嬢様たちにかかれば 笑い話レベルのご愛嬌で済むのだけれど、

 『石の陰に何だか小さなチップの破片が…。』
 『…っ。』
 『またですか〜。』

八百萬屋の自室のデスク前にて、
平八が特殊なピンセットの先へと摘まんだ“それ”は、
50円玉の穴より小さいほど微細な代物で。
指紋採取のおりに使うような、黒地のシートの上へ載せ、
飛ばないようにと透明のフィルムをかぶせても

 『やっぱり単なるゴミにしか見えないんですけれど。』
 『……。(頷、頷)』

かわいらしいおでこを寄せ合った七郎次も久蔵も、
それ以上の何かには見えないよぉと
眉を寄せるばっかなところは一般人と同じくなれど、

 『宝石の命は光の反射ですよ?
  こんな異物を挟んだまま完成とするなんてあり得ませんて。』

それに、結構丁寧なコーティングされてますしね、と。
極薄錠剤にも見えなくはないそれをツンツンとピンセットの先でつついて見せて。

 久蔵殿へと授与されることが判ってての細工かなぁ。
 あのお屋敷へ忍び込んで取り戻す自信ありってですか?
 いったん預けたってクチではないような気もしますがね。
 じゃあ…何なんですよ。

 『発信型GPS機能を搭載させるには小さすぎますが、
  それでも…例えば伝書鳩なんかへ埋め込むチップなら
  この大きさが妥当でしょうから。』

反射型の現在位置を知らせるアレ?
ええ、こっちから電波を放って、
それへの反応を拾う形で使うアレです…と。
要らんことへばかり詳しくなってくお嬢様たちで。

 『麻薬の取引の手形。』
 『あ、そうか。そういうのがあったっけねぇ。』

久蔵さんチの可愛いペット。
メインクーンのくうちゃんもまた、
そういうタグを首輪へくっつけられてたことが、
彼女らとのご縁だったんじゃあなかったか。

 『こういうトロフィーって、自分のお部屋に並べる?』
 『それこそお宅によるんじゃないかな。』

貰い慣れてる、若しくは部屋に余裕があるのなら、
応接室などへ専用の置き場を設けている人もいようし、
はたまた玄関先に飾るお宅もあるのかも。

 『でも、美少女コンテストの受賞だし。』
 『あ、そっか。だったら自分のお部屋かな?』

で?
う〜んと、美少女を片っ端から誘拐…ってのには無理があるか。

 『盗聴。』
 『あ、それかも?』
 『いや、それはどうでしょうねぇ。』

それだとマイクが拾った音声を発信させなきゃなりませんから、
この小ささでは無理がある、のだそうで。

 『バッテリが要りますからね。』
 『そっか。』

あーでもない、こーでもないと、
怪しいチップを前に 怪しい論を交わすお嬢さんたちであり。

 『とりあえず、様子を見よっか?』
 『それしかないかなぁ。』

待て待て待て待て、勘兵衛様への相談は?(笑)
そこでそういう選択をしないから、
いつも叱られるんじゃあなかったか?

 「…だって、ねえ?」

 相談をしたとて、考え過ぎだと言われるのが落ちですって。
 ゴミがくっついてただけだろうってね。
 それに、話半分でも信じたとして、引き取ろうと言われたとしても、

 「ヒサコ様狙いで故意に仕込まれたものなのならば、
  ブツが此処になくたって、関係なく怪しい者が侵入しかねない?」

 「……結婚屋。」

せめて自分にくらい相談して下さいなと、
久々に容体が悪くなったお嬢様のボディガードを
福耳の麿様こと、大旦那様から仰せつかった誰かさんが。
お庭に向いてたポーチからスルリと入って来つつ、
しょっぱいお顔になって見せ。

 「まぁね、
  単なる少女雑誌の読者投票コンテストだったのに、
  まさかこぉんな豪邸のお嬢様が
  トップを取ろうとまでは思わなんだらしくって。」

読者モデルじゃない、一応は芸能人であったとしても、
一般家庭のお嬢さんとか、せいぜい一人暮らしのマンション住まいでしょう?

 「やっぱりチップ狙い?」

此処じゃあセキュリティが半端ないですからと、
言いかかるのへ先んじて、
平八や七郎次がわくわくと詰め寄るのへ、

 「〜〜〜お嬢さんたち。」

こういう段取りに通じててどうしますかと、
はぁあと肩を落とした、その筋の“何でも屋エージェント”さん。
でもまあ、誤魔化す方が却って危険というのも判っておいでなものだから、

 “じゃあ自分たちで確かめるって、
  乗り出しかねないんだものなぁ。”

なので、知ってる限りは話すし、
同じ内容を、雇い主の麿様は勿論のこと
勘兵衛や榊せんせえにも伝えるつもりの良親さんによれば、

 「チップはただの目印だよ。
  そんな小細工をした連中の目当てはトロフィーそのもの。」

 「トロフィー?」
 「本物の水晶ではないけれど?」

そのくらいは最初に鑑定したらしく、
そりゃあまあ綺麗なクリスタルだけどと、
棚のほうを見やった彼女らなのへ、

 「フリント硝子って知ってるかな? 鉛ガラスとも言うけど。」
 「クリスタル硝子のことでしょ?」

屈折率が大きく光沢に富み、
光学ガラスに用いたり工芸品に使われたりする。
水差しや置物、装飾品やチャームなどにも使われていて、

 「ちょっと特殊なものが配合されてるそうでね。」

これ以上はわたしも専門じゃないからよく知らないが、

 「強度が微妙に高いのと、屈折率が破格だそうで。
  何か他の工学研究へも使える、ちょっとした発明なんだって。」

 「……それってもしかして、▽▽▽博士の工房産じゃあ?」

うあ口惜しい、素材工学も守備範囲なのに気がつかなかったよぉと、
サイドボードまで大急ぎで立ってゆくのがひなげしさんなら、

 「???」
 「何か、ヘイさんの得意分野だったらしいね。」

珍しいことにはそこに気づかなくての、
ちょこっと的外れをしていたらしいと判ったのが七郎次なら、
まだ意味が判っていないのが久蔵と、

 “温度差があるのが可愛いなぁ。”

無邪気なもんだと思える良親さんも、物差しがちょっとおかしいのでご用心。
とりあえず、
こちらのお宅へはトロフィー泥棒が出なくてよかったということで、
コトの次第ごと島田警部補へ持ってく所存の丹羽さん。
その足元では、コロンコロンのメインクーンさんが
“にゃお?”と小首を傾げておいでだったそうな。






    〜Fine〜  14.02.03.


  *珍しくも読み間違いの巻でした。
   まあここが女子高生の推理の限界と言いますか、
   そうそうドラマチックだったり
   SFチックなことばっか起きないということで。

   「何かと巻き込まれている時点で、十分希有ではありますがね。」

   いやまあ、そこはそれこそ“お話”ですから。(く、苦しい?)

ご感想はこちらへvv めーるふぉーむvv

メルフォへのレスもこちらにvv


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